本研究の遂行に先だってさらなる文献研究を行い具体的方法を検討したが、年度当初の実施計画の内容と関連領域の実際的な研究動向との関連性が薄いことが判明したため、対象および方法に関して変更を行った。 (1)発声させる言葉の変更 他の先行研究における音声データ解析結果との比較を容易にするため、当初の感情に関する言葉(「喜ぶ」「怒る」「悲しむ」「楽しむ」)を、「こっちへいらっしゃい」という言葉に統一し、これを3つの感情(喜んでいる、怒っている、悲しんでいる)に見合うように発声させることとした。 (2)対象の変更 音声は感情や認知などの影響もさることながら、発声器官の状態(声道形状の変化、声帯の緊張など)が大きくその解析結果に影響を与えると考えられ、またそのことを指摘する先行研究もある。抗精神病薬の服薬により、多くの患者は錐体外路症状による振戦や筋強直・筋固縮を程度の強弱はあれ呈する可能性が高い。従ってその影響を排除しなければ純粋に疾患特異的な音声学上の変化を評価することが出来ないと考えられた。そこで、対象を未治療の統合失調症患者に変更した。 このような研究計画における変更を行った結果、学内の倫理委員会の承認を得るのに時間を費やしたこと、さらには未治療の統合失調症患者が研究者のもとを受診しなかったことから、結果的には目的とする音声データを収集することができなかった。来年度は未治療患者にこだわることなく治療中の統合失調症患者にも依頼をして、まずは健常者との比較を行いたい。その上で得られた結果から抗精神病薬の副作用による影響を見極めたい。
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