研究概要 |
本研究は、バーチャルリアリティ(以下、VR)による空間学習特牲について心理学的に解明することを主たる目的としている.今年度はVRによる空間学習の受動陸が学習に及ぼす影響を検証するため、三次元コンピュータグラフィックス(以下三次元CG)による移動映像の観察から学習する場合(映像観察条件)と、自らの操作によって学習する場合(操作条件)とで、学習の正確さを比較する実験を行った.学習対象は三次元CGによって作成された空間(街並み)内の経路であり、そこには方向を変える交差点が7箇所含まれていた.映像観察条件では、出発地点から終着地点までを移動する映像を3回観察し、操作条件では、それと同じ経路を自らの操作によって3回移動することによって空間を学習した.いずれの条件でも学習の現実感を高めるため、背面投影式スクリーンおよびプロジェクターが用いられた.被験者は、いずれかの条件で学習した後、以下の課題を遂行した.すなわち、定位課題:経路の移動映像を観察させ、途中で再生を3地点で一時停止し、それぞれの地点を基点として出発地点と終着地点の方向推定,およびその地点が経路全体の中でどの付近かを推定する課題、風景再認課題:学習対象となった空間内での風景画像について、それらが学習経路上の風景であるかどうかを判断する課題であった.また、学習方略および課題遂行時の推定方略に関する質問紙にも回答させた.各課題成績について条件間の比較を行なったところ、特に顕著な差異は認められなかった.一方、学習方略による個人差の傾向があり、道順的理解を志向する場合は風景再認の精度がやや優れ、地図的理解を志向する場合は定位課題の精度が優れる傾向が見られた.これらの結果から、学習の受動性が空間学習の精度に影響を与えるとは言えず、VRによる案内がガイド付のものであれ探索型であれ、空間学習にそれほど大きな差異はない可能性が考えられる.
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