生存時間分析の手法は喪失歯の情報を取り込むことのできる非常に有力な手段と考えられるが、この分析には観察期間の明確な多数の個別長期追跡データが必要である。歯の喪失過程はかなりの長期に亘るため、現状ではこのようなデータを得ることは大変難しい。 本研究の目的は「喪失歯の情報を反映できる有効な手法の開発」であり、生存時間分析とも比較対照でき、またある時点の断面データ(歯科疾患実態調査等)から情報を適切に抽出できるようなものが望まれる。このような観点から、歯の喪失の問題を待ち行列理論における純粋死亡過程と位置づけ、ある時点で現在歯数nがn-1(喪失歯1)となる場合について根幹となる式を導出した。P_n(t)を時刻0からtまでにn本の歯を失う確率とし、時刻tからt+Δtの間に1歯を失う遷移確率λ_nΔtは各状態で異なっていると仮定して、その一般解を求めた。現在、確率の一般式を行列の固有値問題として解く数値計算用プログラムの作成に取り掛かっており、擬似的なデータを用いてシミュレーションを行う予定である。より一般的に取り扱うためには、現在歯数がnからm(<n)に遷移する確率を含む計算やλ_nの時間依存性を考慮する必要があるが、まだ研究はそこまで進展していない。 本手法の検証に必要なパラメタλ_nの決定には、個別データの長時間平均と分布の集団平均は一致すると考えて、厚生労働省による過去の歯科疾患実態調査データの組み合わせから推定した喪失歯(現在歯)に関する時系列データを作成して用いることを考えている。
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