注意欠陥/多動性障害(ADHD)、前頭連合野の機能異常、ドーパミン(DA)調節系の変化との間に密接な関係のあることが示されている。そこで、発達初期に前頭連合野で生じたDA調節系の変化がADHDの生物学的要因であると仮定し、これを検証するため、DAの阻害剤である6-OHDAの注入により前頭連合野背側部のDA系を破壊した新生児サルを用い、このようなサルがADHD児に見られる行動特徴(多動、集中力不足、衝動性、気分の易変性、落ち着きのなさ、無秩序性など)に類似した行動変化を示すかどうかを解析した。平成15年誕生の子ザル2頭、平成16年誕生の子ザル3頭、平成17年誕生の子ザル4頭の計9頭を使用して実験を実施した。6-OHDA注入前のテストケージ内での行動観察を実施したのち、平成15年、16年生まれの5頭の子ザルの両側前頭連合野背側部に6-OHDAを注入し、この部位のドーパミン線維を破壊すると同時に、長期にわたって神経支配を阻害する処置を施した。注入群5頭と非注入群3頭の自発行動を実験室内に設置したテストケージ内で観察した結果、非注入群に比べ、注入群で6-OHDA注入後の自発行動の顕著な増加が観察された。従って、前頭連合野背側部への6-OHDA投与により多動が生じることが明らかになった。一方、ADHD児では自発行動量の増加がリタリンの投与によって抑制されることが知られている。そこで、これらのサルに、ADHD児で処方されているのと同様にリタリンを経口投与し、その行動に及ぼす変化を調べた。3.0-5.0mg/kgの投与による効果を観察したところ、リタリンの投与により行動量の減少が数時間にわたって観察された。
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