注意欠陥/多動性障害(ADHD)は児童の3-5%に見られ、注意力不足、衝動性、落ち着きのなさなどの行動特徴から、社会的に大きな問題となっている。ADHD児の行動上の特徴が前頭連合野の損傷による遂行機能障害と酷似していることから、発達初期に前頭連合野に生じた機能障害がADHDの要因であることが示唆される。一方、神経終末からのドーパミン(DA)分泌量の促進やDAの再吸収の阻害の効果のあるmethylphenidate(MP)がADHDの治療に有効であることから、神経終末でのDA放出や再吸収の異常、DA受容体の感受性の異常がADHDの原因であることが示唆される。前頭連合野でDAの含有量が高く、前頭連合野のDA量の増減により遂行機能障害が生じることから、発達初期に生じたDA機能系の異常による前頭連合野の機能異常がADHDの原因であると考えられる。この仮説を検証する目的で、6頭のサルを用い、半数のサルには両側前頭連合野背側部に6-OHDAを注入し、DA線維を破壊すると同時にPA線維の再侵入を阻止した。6-OHDA注入サルでは多動傾向が生じ、この傾向はMPの経口投与により一時的に解消されることが今までの研究で示されてきた。今年度は6-OHDA注入サルに注意障害や衝動性が観察されるかどうかに注目した研究を実施した。そのため、サルを含む写真を選択させる視覚弁別課題を行わせ、課題の遂行状態を6-0HDA注入サルと非注入サルで比較した。その結果、いずれのサルも課題を十分に遂行することができるが、6-OHDA注入サルでは課題を一時中止することが多く、また反応時間前に反応をする傾向が有意に高いことが見出された。この結果は、注入サルにおける注意の障害ならびに衝動的傾向の存在を支持するものと思われる。
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