研究概要 |
大脳皮質の発生では、興奮性神経細胞の多くは皮質(外套)の脳室帯で誕生して放射状に脳表面近くに向かって移動するが、抑制性神経細胞は基底核原基(Ganglionic Eminence GE)と呼ばれる腹側の領域で誕生し、長い距離を接線方向に移動する。基底核原基は、解剖学的特徴から3つの部分(内側基底核原基MGE,外側基底核原基LGE,尾側基底核原基CGE)に分類される。従来の我々の研究で、MGE由来の細胞は外側に向かった後さらに背側に向かって皮質全体に広く分布するのに対し、CGE由来の細胞はむしろ一気に尾側に向かって移動するものが主であることを見いだした。そこで次に、比較対象としてLGEの細胞も対象とし、蛍光蛋白質遺伝子を導入してラベルし、三次元的な移動プロファイルを明らかにしたところ、MGEやCGE由来細胞とは異なるプロファイルを示すことがわかった。そこでさらに、三者がなぜ異なった方向に移動するのかを明らかにするため、各々の細胞を採取して、蛍光ラベルした後、異なる脳のGEの別の部位に移植して、その後の挙動を定量的に調べた。その結果、MGE、CGE、LGE由来の移動細胞は、少なくとも胎生13.5日時点で、三者間で既に移動に関わる細胞自身の内在的性質が互いに異なることが示唆された。以上より、細胞表面の受容体を介するシグナル機構や、細胞の特性を決める細胞内在的な運命付けが相互に異なっている(そのために移動方向が異なる)可能性が考えられた。
|