本年度は下記の研究を進め、本研究の主目的である脳内でシナプスを作るシナプス前神経細胞への遺伝子導入およびタンパク質発現阻害の方法を確立した。 1.共通手技 (1)麻酔下ラット頚部切開下に迷走神経本幹〜節状神経節を露出し、ガラスキャピラリーで核酸溶液を1-2μL神経節鞘内に注入した。 (2)注入後、神経節鞘周囲を導電性ゲルで満たし、特注の双極電極を用いた電気穿孔法で核酸を細胞内に導入した。 (3)導入の24-48時間後に深麻酔下に節状神経節を摘出した。 2.遺伝子導入と電気穿孔法の最適化 (1)EGFP発現ベクターを節状神経節内に注入し、注入する量・濃度・速度・方法などに加え、さまざまなパラメーターを変えて電気穿孔法による遺伝子導入を行った。 (2)摘出された節状神経節を固定し、EGFP発現細胞の分布および障害細胞の分布などに基き、導入方法を評価し、最適条件を得た。 (3)導入後7日-14日後に脳幹を摘出し、EGFP発現を示す求心性線維が延髄孤束核まで到達していることを確認した。 3.遺伝子発現阻害 (1)蛍光色素基を持つsiRNAを上記方法で導入し、直後、神経節を摘出し、蛍光siRNA分子の神経細胞内への取り込みを確認した。 (2)節状神経節細胞での発現が確認されているアデノシンA1受容体のmRNAに対するsiRNAを合成し、上記方法で導入した。 (3)導入1日〜9日後、節状神経節を摘出し、mRNA抽出後real-time RT-PCR法を用いてmRNA発現量を測定したところ、対GAPDH発現比が10%以下まで低下し、mRNA発現の大幅な抑制が確認された。 以上によって確立された方法は、シナプス前機能分子の機能解明に極めて有用であると考えられる。来年度は、本法を多くの分子に応用し、in vitro実験系、ならびに、in vivo実験系を用いてそのノックダウンが生体機能に及ぼす効果を評価し、公表する予定である。
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