大豆イソフラボン類は体内で腸内細菌の働きにより様々に代謝されるが、その代謝には大きな個体差があることが知られている。例えばダイゼインの代謝産物のひとつであるイコールはダイゼインやゲニステインよりも生理活性が強く、大豆イソフラボン類の保健効果における役割が注目されているが、イコールを活発に産生する個体と産生しない個体があることがわかっている。本研究ではまず複数の個人から繰り返し糞便試料を採取し、その大豆イソフラボン類代謝活性を測定した。本研究では嫌気的に調整した糞便懸濁液にダイゼインとともにゲニステインも添加し、イコールの産生だけでなくこれらの大豆イソフラボン類の減少についても同時に解析した。その結果、イコールの産生は一部の個体でのみ求められ、採取回による若干の変動は見られたものの、ダイゼインやゲニステインの減少を含めた代謝活性の特徴は同一個体では試験期間を通して比較的安定していた。また一部の試料では、ダイゼインが大幅に減少しているにもかかわらずイコールの産生が認められない、イコールの生産があってもダイゼインの減少がわずか、ダイゼインは減少しないがゲニステインは減少するなど他の試料には見られない特徴のある代謝活性を示した。残念ながら、大豆イソフラボン類代謝の活性の違いと菌叢構成や水分含量その他の糞便の特性との間に相関を見出すことはできなかった。現在は平成19年度にかけ、これらの特徴のある代謝活性を持ったヒト糞便を無菌マウスに定着させたヒトフローラ定着(HFA)マウスを作製し、その活性がHFAマウス腸内に再現できるかどうかを確認する実験を準備中である。異なる特徴のある大豆イソフラボン類代謝活性を持ったHFAマウス群が確立されれば、腸内菌叢による大豆イソフラボン類の代謝の違いが生体におよぼす影響を研究するための有用なモデルとなることが期待される。
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