マイクロチャンバ内に培養された神経細胞が放出する神経伝達物質をナノホールより取り込み、ナノホール直下のマイクロ流路中での酵素反応を利用して神経伝達物質の濃度を計測することが可能な酵素センサを試作した。本センサデバイスは、神経伝達物質と酵素の触媒反応によって生成された過酸化水素を電気化学的に計測するものである。従来のように酵素を電極上に固定化することはせず、酵素を微小流体として用いることにより酵素固定化量の制限を無くし、酵素反応を効率的に行わせることができるため、より高感度で高速な計測が期待できる。電気化学的計測に必要な作用電極は、マイクロ流路中のナノホール直下にTi/Ptを成膜しその上から白金黒をメッキすることにより構築した。ナノホールは白金黒によって塞がれるが、白金黒のナノポーラス構造によって、分子量の小さな神経伝達物質(例えばグルタミン酸の分子径は約0.8nm)はチャンバからマイクロ流路に透過し、分子量の大きな酵素(例えばグルタミン酸酸化酵素の分子径は約8.2nm)はマイクロ流路内からチャンバに漏れ出ることがないようなフィルタリング効果を実現した。 白金黒のフィルタリング効果を確認するために、蛍光色素を用いた実験を行った。同一のメッキ条件でメッキ時間のみが異なる白金黒に対して、分子径が約1.3nmの蛍光色素Rhodamine Bと分子径が約6.8nmの蛍光色素GFPを滴下し、その透過性を調べた。その結果、Rhodamine Bを透過しGFPを透過しない、すなわちグルタミン酸を透過しグルタミン酸酸化酵素を透過しない白金黒を形成するための最適なメッキ時間を導出することに成功した。また、基礎的な計測実験として、製作したセンサデバイスのナノホール上に過酸化水素を滴下し応答電流を計測する実験を行い、過酸化水素濃度と応答電流値の関係を求めた。
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