九州大学臨床・腫瘍外科で採取される膵疾患患者の膵液を対象として、ラマン分光解析を行った。 正常膵液と膵癌患者膵液を採取し、2つの試料間に異なるラマンスペクトルを検出できるか検討した。通常のラマン解析では正常膵液と膵癌膵液は類似のスペクトルを示し、両者は判別できなかった。一方、表面増強ラマンでは、正常膵液にはみられない特異的なバンドが膵癌膵液で観察された。また、このバンドは造影剤によるバンドとは明らかに異なるスペクトルであった。この結果から、表面増強ラマンを用いると膵液中の膵癌特異的分子を捉え得ることが強く示唆された。 シグナルの増強の程度は、金属ナノ粒子もしくはナノ加工のサイズ、形状、金属種(金、銀など)により大きく左右されるため、金属ナノ粒子(ナノ加工)上にモレキュラーインプリンティングポリマーを結合し、特異的な分子と相互作用させ、より高感度な測定法を検討した。その対象サンプルとして、癌細胞株と正常膵管細胞株(HPDE)を用いたラマン解析を行っている。臨床検査材料としては、正常膵液、膵炎膵液、膵腺腫膵液、膵癌膵液を収集し、一部の検体については、測定を実施した。 しかしながら、その後の解析では、膵癌細胞と正常膵管細胞を明確に区別できる再現性のある結果が得られず、再現性確保のための工夫が必要であることが判明した。
|