本年度は、まず、パーキンソン患者の歩行訓練用聴覚刺激として、音楽ペーシング音をMIDIデータにより製作した。音楽ペーシング音作成にあたっては、音楽の時間的継起の基本単位であるbeat拍をメトロノーム音の速度提示に代わるものとして利用した。これを用いて、健常者12名(男性4名、女性8名、平均年齢30.1±2.4歳)に対し歩行実験を行った。 歩行ペーシングを次の3条件について行った。条件A「ドラム・ベースパートを消去してビートを極少にした音楽を使用(ビート無し音楽)」、条件B「ドラム・ベースパートを強調してビートを明確にした音楽を使用(ビート有り音楽)」、条件C「メトロノーム音を使用(メトロノーム)」。各条件共に、歩行途中で音楽の速度が4回変化するよう設定し、被験者が音楽の速度変化に応じてステップを調整する時間を計測した。 実験の結果、速度認知が最も効率よく短時間で行われたのは条件C(メトロノーム)であったが、条件B(ビート有り音楽)もペーシング音としての機能を十分果たし、メトロノームの機能に匹敵するものと考えられた。 音楽をペーシング音として使用することの利点は、変化に富んだ音色と音列が聞き手の集中力を持続させることにある。パーキンソン病患者のリハビリテーションでは、機能維持の他に、うつ傾向になりがちな心理面をサポートし、集中力、持続力が減退しないようにすることも重要な目標であり、歩行訓練でのペーシング音楽の使用は、この点においても有効であると考えられる。 本年度の健常人における実験結果から、MIDIによる音楽ペーシングの有効性が確認できたため、平成18年度は、パーキンソン病患者の歩行支援に関する実験を行う予定である。
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