日本国内で行われている介護技術とヨーロッパにおける介護技術の比較を人間工学的、運動力学的に分析を行った。はじめに北欧などで行われている介護技術の確認と翻訳を行った。そして、わが国の介護福祉士国家資格試験に準じた介護技術とその他代表的な介護技術を比較することとした。課題とした介護技術は、車椅子坐位における後方への坐位姿勢修正時の介護技術とした。 対象者は健常成人女性11名で平均年齢23.3±2.5歳、身長159.0±3.6cm、体重51.5±3.7kgとした。この対象者における介護動作の運動力学的分析を行った。測定内容は介護動作時の介護者の背部筋(脊柱起立筋)活動、と下肢筋(大腿直筋)活動の表面筋電測定、動作時の介護者にかかる床反力を測定した。さらに介護動作の違いを主観的評価であるVAS(Visual Analogue Scale)にて腰部の負担感評価を実施した。 介護動作は、(1)腹帯を車椅子後方(バックレスト後方)から引き寄せる動作、(2)介護福祉士国家試験に準じ後方から被介護者の両前腕を腋窩から把持し引き寄せる動作、(3)シーツを使用し左右交互に引き、被介害者を後方へ引き寄せる動作、とした。各三動作の測定結果は3群間多重比較において統計分析を行った。 結果の筋活動は、最大随意筋収縮(MVC)に対し、(1)の動作では脊柱起立筋53%MVC、大腿直筋12.6%MVC、(2)の動作では、脊柱起立筋39%MVC、大腿直筋15.1%MVC、(3)の動作では、脊柱起立筋25%MVC、大腿直筋9.3%MVC、であった。鉛直成分の床反力測定結果では、介護者の体重(W)に対し、(1)の動作では168%W、(2)の動作では、158%W、(3)の動作では、131%Wであった。筋活動量および床反力鉛直成分における分析結果は、(3)の動作で他2つの動作に対し有意な差が見られた。また、主観的評価においても(3)の動作が他の2つの動作に比べ腰部の負担感を低く感じ、統計分析結果においても有意な差が得られた。 以上のように、車椅子上での介護動作において介護者の腰部負担を回避することが可能な動作の存在が確認できた。さらに労働省重量物持ち上げ基準である作業者の体重の140%W以下に対応が可能とも考えられた。今後各介護動作の分析、エネルギー消費量、動作解析を実施し介護災害の予防に向けた介護動作技術の研究を行う。
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