研究概要 |
廃用性萎縮筋を予防するために,後肢懸垂前の運動(プレコンディショニング運動)を行い,タンパク質新生,分子シャペロンの機能をもつheat shock protein 72 (HSP72)の発現量,及びタンパク質分解系のプロテアーゼであるリソソーム系,カルパイン系,ユビキチン-プロテアソーム系の3経路の関与について検証を行った.本研究には,Wistar雄性ラットによるMoreyモデルを使用した.筋原線維タンパク質量は対照群と比較し,2週間の尾部懸垂による萎縮群では38%の有意な減少を示したが,プレコンディショニング運動を行った群では5%の筋原線維タンパク質の減少を生じたのみで筋原線維タンパク質量の低下を減衰させた.2週間の尾部懸垂によりカテプシンL,カルパイン3,及びユビキチンリガーゼE3のmRNAは有意に増加を示したが,プレコンディショニング運動群では変化を示さなかった.一方,HSP72 mRNAは萎縮群で有意に低下したが,プレコンディショニング運動群では変化を示さなかった.カスパーゼ3のmRNAは3群間に差はなかった.本研究によりプレコンディショニング運動により2週間の実験期間内でラット骨格筋の筋原線維タンパク質量の減少を予防できた.この制御機構として,タンパク質分解系であるカテプシンL,カルパイン3,及びユビキチンリガーゼE3の活性化を抑制していることが検証できた.また,プレコンディショニング運動を行うことでタンパク質の分子シャペロン作用をもつHSP72の低下を減衰することができた.これらの結果から尾部懸垂前のプレコンディショニング運動は筋タンパク質分解系の活性化を抑制でき,廃用性萎縮の進行を予防できることを示唆した.
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