研究概要 |
脳由来神経栄養因子BDNF(brain-derived neurotrophic factor)は脳内における神経回路網の形成や発達、その生存維持に関与する遺伝子である。近年、その66番目のアミノ酸バリン(Val)がメチオニン(Met)に置換されているSNPが、言語的記憶能力、特にエピソード記憶能力と関係することが示唆され、Met/Metのグループではエピソード記憶テストの成績が他のグループより不良であると報告された。今回我々は先天性、遺伝性の言語障害患者の末梢血からゲノムDNAを抽出し、BDNF遺伝子の上記SNPをPCR法で解析し、正常篤志者と比較した。症例の集積を平岡、熊倉が、遺伝子解析は青柳が主に担当した。疾患群(言語発達障害患者)54例の解析結果はVal/Val12例(22.2%)、Val/Met32例(59.3%)、Met/Met10例(18.5%)で、正常対照(正常篤志者)89例の解析結果はVal/Val36例(40.4%)、Val/Met41例(46.1%)、Met/Met12例(13.5%)であった。疾患群にMet SNPが多い傾向は見られた(カイ二乗検定,p=0.081)。今後、症例を増やし、言語発達障害のタイプ別にも検討を加える必要がある。 発達性読み書き障害は、左側頭葉下部領域の機能低下、左側頭葉〜頭頂小葉にかけての血流低下の報告がある。しかし文字言語の構造の違いによって出現の仕方が異なっている可能性が指摘されている。我々は、言語発達障害から発達性読み書き障害に移行した男児1例に対し、SPECT(single photon emission computed tomography)を施行した。結果は、頭部MRIでは明らかな異常は指摘できなかったが、SPECTでは中前頭回の血流の低下がみられ、Siok et al.(Nature,431:71-66,2004)のfMRIを用いた結果と一致した。当患者にFOXP2遺伝子の変異はなかった。左中前頭回は(1)文字図形から音節への変換、(2)文字と意味との対応づけに関連しており、書かれた文字についてのさまざまな情報を関連づけて統合する脳部位として機能するするため、英語圏での読み書き障害とは異なった原因が考えられた。
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