後天的視覚がい害により全盲となる原因のうち、最近では人口の高齢化とともに加齢黄斑変性等も注目されるなど、誰もが何時かは視覚に障害を持ち得る時代背景がある。このため本研究は暗闇など五感のなかから視覚を取り去った状態で、五感それぞれの感度がどのような変化をするのか、その他の感覚器官がどのように代替または優先して空間認識を図るのか、先天的視覚障がい者と晴眼者でどれだけ空間把握能力が違うのか、その実態把握と諸方策の仮説を探った。 聴覚、触覚、味覚、嗅覚のそれぞれについて暗室での感覚の感度変化を測定実施した結果、触覚が最も暗闇のなかでの感覚信頼度の優先順位が高いことが判明し、特に「足元の触覚」が極端な差異を示すという興味深い結果が得られた。これにより空間把握を支援するツールのアイディアに関し様々な代替案を企画した。触覚と聴覚のコラボレーションによって、特に従来聴覚だけに依存した交差点横断の安全性を高める仮説ツールの開発を行い、たとえば最も優れたスエーデン製の聴覚信号機と複合させることで、横断歩道歩行の直進性が確保されるという信頼性に関し確信を持つにいたった。今後は、本年度の研究成果を生かし、実地での道路上における実験を通し、視覚を補完する触覚+聴覚の相互補完関係を活かした商品企画の検討を行っていく計画でそのための基本的なデザインコンセプトが見出せた。「障害者のほうが健常者よりも優れた感覚が存在し得る」ことをユニバーサルデザインの基本理念として暗闇空間把握支援ツールの開発を行う可能性が、今回の萌芽研究の成果として実証された。本研究成果を空間把握支援の技術仮説として構築を図り、晴眼者も視覚障害者も知らずと慣れ親しめるユニバーサルデザインにより、安全な火災・災害避難等に寄与する空間誘導技術の開発に貢献し、点字ブロックに変わる新たな誘導方式のデザインが可能であることを示唆するものである。本研究成果は関連する学会において発表したのみならず、視覚障害者の支援を行っている福岡市立心身障害福祉センターにおいても講演を行い、関係者からの賛同を得た。
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