研究概要 |
本研究では,動作調節機能を対象とした新しい運動療法やその効果・有効性を評価する方法を構築するための基礎研究として,訓練による学習・習熟過程の模擬・再現も視野に入れた神経筋系の数理モデルを開発することを目的としている.このため,特に下肢の運動状態や筋出力状態,およびその学習過程を模擬・再現できる神経筋系モデルを構築することに焦点を絞って進めてきた.前年度はモデリングのベースとするため被験者が自転車エルゴメータを漕いでいる最中の生体物理量の計測を行うことでモデル全体のデザイニングを検討した.今年度は脊髄レベルの機能的神経回路で左右交番的な歩行様リズムを生成する上で重要な役割を果たすと考えられている中枢パターン生成器(CPG)のモデリングを検討した.多くの先行研究ではCPGを単純な微分方程式で記述される非線形振動子の結合系としてモデル化している.これを用いることで実験から得られる生体物理量のダイナミクスを定性的に説明することはできるが,定量的に再現することは難しい.我々は脊髄CPGの神経系に関して得られている神経生理学的知見をよい精度でモデル化する必要があることを確認した.また,単一神経モデルとしては様々なモデルが提案されているが,本CPGモデルを構築するために用いる神経モデルとして,ダイナミクスの再現性と計算コストの両面から検討し,Izhikevich(2003)により提案されているスパイキングニューロンモデルを用いる方針を固めた.神経細胞モデルが示すダイナミクスは,あるパラメータの連続的な変化に伴い質的に変化する揚合がある(分岐現象).CPGモデルとして重要なダイナミクスは漸近安定な振動性のダイナミクス(安定リミットサイクル振動)であり,神経モデルが安定リミットサイクルを持つに至る分岐の種類は複数存在する.このスパイキングニューロンモデルには,パラメータを適切に調節することでリミットサイクル振動を生成する複数の分岐経路を任意に選択することができるというメリットがある.
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