骨格筋は生体内の中で最も可塑性のある組織のひとつであり、様々な運動形態により量的・質的変化を起こすことが知られている。すなわち、レジスタンス運動をすれば筋は肥大し、持久性運動をすると筋の有酸素能力は向上するが、使わなくなると筋は萎縮する。筋の可塑性を理解するには、これらそれぞれのプロセスに関わる分子に注目し、それが過負荷・除負荷によりどのように変化するのかを詳しく解析することが必要である。研究対象は、骨格筋の培養細胞をはじめ、マウス等の実験動物個体を用いた基礎研究、そしてヒトの被験者とした応用研究を行った。最終的には「筋の可塑性を牛耳る遺伝子の網羅的探索」をマイクロアレイの利用により行った。ゲノムプロジエクトが終結を迎えた今、筋の中で起こっていることをマイクロアレイ技術を使うことで網羅的に解析することが可能になった。ゲノムプロジェクトで判明した遺伝子をスライドグラスの上に規則正しく配列し(スライド一枚あたり2万種類以上の遺伝子を配置できる)、それに対して運動前後の筋組織から抽出してきたmRNAを競争的にハイブリダイゼーションさせるもの。2種類のmRNAは異なる色の蛍光色素でラペルし、それを同時にハイブリダイゼーションにかけるので、結合したmRNAはその量に従ってそれぞれの色のシグナルを強く出すようになり、複数遺伝子のアップレギュレーション、ダウンレギュレーションが一度に解析できるようになる。異なる系統のマウスを5日間、10日間ランニングホイールを使つて自由運動させ、運動量が多かったグループと、全く走らせなかったグループの足底筋からmRNAを抽出し、マイクロアレイを使った比較検討を行った。その結果、発現量が3倍以上に増えたものが62遺伝子、3分の1以下に減少したものが214遺伝子見つかったが、そのほとんどは未だ機能のわかっていない遺伝子であった。
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