マラソンの記録の規格化は、特定の大会でのマラソンの記録(以下、「実走タイム」)を選手の出場資格記録(以下、「持ちタイム」)の統計平均的レース条件における記録(以下、「補正タイム」)として変換することにより記録を規格化する手段である。この研究にはアテネ五輪の選考に係る混乱を契機として着手したが、マラソンの記録に固有の歪や作為性および運動能力の差異に対応するために統計学上および運動生理学上の新たなモデルを付帯的に導入し、それらをグローバルミニマムに落とし込むアルゴリズムに組み込むことより、大会の出場選手数・性別・制限時間等の差異に関わらず妥当性・整合性を担保する数値変換の手続きとして確立したものである。 また、こうした手続きを一般化した方法論をブラックボックス法と命名し、特定の測定系下での測定値を多様な測定系の統計平均的測定系における測定値として変換することにより測定値の誤差を規格化処理する手段として測定学上に体系づけている。 このマラソンの記録の規格化は、異なる条件下での記録の比較における従来の記号主義的アプローチの限界を突破するものであり、マラソンの世界において新たな境地を切り拓く可能性を秘めているが、五輪や世界選手権の代表選考においても、大きな変化をもたらすであろう。すなわち、実走タイムを規格化処理した補正タイムは選手の実力を的確に示す指標であり、五輪等の結果との相関も高いことから、代表選考は選考レースにおける実走タイム或いは順位重視から補正タイム重視へと変化するであろう。一方、不透明な選考で不利益を被った選手は、補正タイムを根拠として訴えを提起することもできる。いずれにしても、新たな方法論の出現を受けて選考方法を早急に見直す必要がある。 なお、平成17年度は本研究に関して運動生理学会及びランニング学会で口頭発表を行っており、ランニング学会においては最優秀発表賞を受賞している。
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