低酸素環境下におけるトレーニングは、現在心肺機能や造血機能などの効果を期待し、マラソンをはじめ様々なスポーツで取り入れられている。しかし、高地の環境は低圧・低酸素・低温および低湿度であるため、運動中は平地に比べ、呼吸や発汗の促進に伴い身体からの水分喪失が多く、脱水症等の原因になると考えられる。本研究では、長距離ランナーを対象に中国・昆明(標高約1900m)で7日間の高地トレーニングを実施し、その前後の血液状態を観察した。 その結果、高地トレーニング前に比べRBC(p<0.05)、Hct(p<0.05)が有意に増加した。Hgbは対象者全員が実験前に比べ増加したが、個人差が大きく有意ではなかった(p=0.06)。Na、Cl、K、Mgに変化はみられなかった。また、血液流動性測定装置(MC-FAN)による全血通過時間は、高地トレーニング後に有意(p<0.05)に延長した。なお、対象者の7日間の水分摂取量の平均は2397.7mlであった。 以上のことから、7日間の高地トレーニングによって、酸素運搬能に関する血液生化学データが改善され、短期高地トレーニングの効果が実証された。一方、ヘモレオロジー(血液流動性)は平地における最大および最大下運動負荷によって、血液粘性が高まることがすでに報告されているが、高地滞在によるトレーニングにおいても、同様の知見が得られた。これは、Hgb、Hctの増加に依存すると考えられる。本研究のデータから、高地トレーニングによってRBCが増加しても、ヘモレオロジーが改善されなければ、パフォーマンス向上に貢献しないという問題点が考えられた。
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