研究概要 |
高齢者人口が急増する中,高齢者が自立して心身ともに豊かな生活を実現するためには,健全な衣生活の遂行が重要な課題の一つと考えられる.その支援として,音楽セラピーやアニマルセラピーなどがあげられている.本研究では,ファッションのセラピー効果を客観的・数量的に明らかにすることを目的として高齢者を対象に,嗜好による相違が少ないと思われる和服を用いて,(1)好きな和服を選ぶ,(2)試着するなどのタスクをかけたときの生理反応としての脳波を測定し,種々の解析を行った. 結果の要約は以下の通りである. 1.まず,従来から脳波解析の手法として用いられてきた,α波,β波,θ波の3帯域パワーの含有率およびパワー出力について検討を行った.その結果,コントロールとして用いた大学生および高齢者ともに,どの脳波帯域においてもタスク間の相違は,ほとんどみられなかった. 2.次に,電極間相互相関係数を用いた感性スペクトル解析ソフトによる解析を行った.脳波-頭皮上電位分布の相関パターンから,あらかじめ定めたデータベースを用いて,互いに独立直交する状態ベクトルとして,喜び,怒り(ストレス),悲しみ,リラックス(楽)の感性項目について数値化した.その結果,高齢者で和服着用時にポジティブな感性が上昇し,ネガティブな感性が低下することがわかった. 3.上述の感性項目の加算・減算を含む計11項目を説明変数として,主成分分析を行った.その結果,高齢者においては,和服着用時に第1主成分である"心地よい"の主成分得点が高く,大学生では,和服選択時に第2主成分である"ワクワク"の主成分得点が高くなることなどがわかった. 以上,ファッションが心地よさやワクワクの感性に大きく影響を及ぼすことを,脳波解析から明らかにした.また,電極間相互相関係数を用いる方法が感性解析法として有用性であることがわかった.
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