本研究では、ファッションが高齢者の心理・生理にどのような影響を及ぼすのかを脳波、心電図・血圧変動を用いて客観評価し、高齢者が自立して心身ともに豊かな生活を実現するための一助となりうるファッションのセラピー効果を明らかにすることを目的として行った。また、セラピー効果の客観評価方法についても検討を行った。比較対照として女子大学生を用いた。得られた成果は、以下の通りである。 1.人の4元感性であると考えられる喜怒哀楽として、喜び・怒り(ストレス)・悲しみ・リラックスの感性を誘引すると予想される映像を用いて脳波計測、心電図および連続血圧の計測を行い、結果の解析を行った。また、ファッションとして個人の嗜好の影響が少ない和服を用い、その観賞と試着を行った。 2.脳波解析では、α波、β波、θ波の3帯域についての%パワーによる解析および相互相関係数を用いた解析を行った。高齢者のα波%パワーは、大学生の約1/2程度と少ない傾向がみられたが、タスク間の相違は小さく有用な傾向はみられなかった。また、相互相関係数を用いた感性スペクトル解析(脳機能研究所製)では、和服観賞において、大学生のポジティブな感性が上昇し、ネガティブな感性が減少する傾向がみられた。しかし、この傾向は、高齢者ではみられなかった。脳波の感性ワードと主観評価との相関分析においても大学生でのみ有意な関係がみられた。高齢者における脳波解析については検討を要することがわかった。 3.心電図によるR-R間隔の周波数変動および連続血圧の周波数変動の解析を行った。大学生および高齢者ともに和服観賞時ならびに試着時において、LF/HFが増大し交感神経活動の優位性が観察され、気分の高揚が確認された。しかしながら、連続血圧の周波数分析については系統的な結果は得られなかった。 以上、昨年に引き続き、和服を用いて脳波解析を行う一方、心電図や連続血圧測定による周波数解析を行った。ファッションのセラピー効果については自律神経の優位性を確認することができた。しかしながら、十分であるとは言い切れないのが実状である。筆者らは今後も研究を続行して行く計画である。
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