本年度は、研究目的に従って、以下のことを行った。 (1)比較教育学的アプローチに基づく研究 イギリスのヨーク大学及び全国科学学習センターとキール大学及びウェストミッドランド地域科学学習センターを訪問し、学校の科学教育を支援する取り組みについて、資料を収集し、担当者にインタビュー調査を行った。その結果、科学学習センターの設立背景には、科学教育を振興することにより世界的経済競争におけるイギリスの地位を維持しようとする、中央政府の戦略的意図があることが明らかとなった。また、バース大学では、科学学習センターと教師教育に関わる中央政府の政策との関係についての資料収集と研究者へのインタビュー調査を行った。現在収集した資料の分析中である。 (2)歴史的アプローチに基づく研究 わが国の昭和期(理科教育の現代化を中心)における科学技術政策に関わる資料収集をし、関係者にインタビュー調査を行った.その結果、1960年代に開発されたアメリカやイギリスにおける科学カリキュラムのわが国の理科教育への受容過程は、初等教育と中等教育では大きな違いがあることが明らかとなった。初等教育の場合、わが国の初等理科教育の歴史的伝統を重んじ諸外国のプロジェクトの受容を限定的なものにしていたのに対し、中等教育の場合は、科学者や教育実践家(指導主事や教師)が主導して積極的に紹介し、受容していったことが明らかとなった。 (3)政策科学的アプローチに基づく研究 科学教育政策研究の創生についてのアプローチについて検討した。そして、本研究を政策統制型でも自己統制型でもない新しく政策指向型と位置づけ、科学教育政策に関する内外アクター(政府、学会、教師)、3つのアプローチ(比較教育学的、歴史的、政策科学的)の統合の必要性を導出した。
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