「ロバート・ボイルの科学思想の起源・背景と研究スタイル」を明らかにするために、ボイルが実際に手元におき、執筆に利用した書籍を解明することに、今回の研究の焦点をあわせた。その書籍の解明の手法としては、ボイルがページ数を明示して引用する箇所をボイル著作集、ボイル所管集、ボイル草稿の全体にわたってリストアップし、ボイルが利用することが可能であった(つまりボイルの執筆以前に出版された)版と具体的に照合する作業を行った。ボイルは当時としてもきわめて珍しい書物を利用していることがしばしばあり、同定することができなかったものも28点残ったが、58点までは同定することができた。そのなかには、これまでのボイルの研究史においてまったく視野に入っていなかったものも含まれる。 ここでは一般的傾向だけを列挙しておこう。1)ボイルは中世の著作をほとんど利用していない。ここでスコラ哲学に関しても、17世紀に出版された数冊の概説書に依拠している。2)ルネサンスの著作に関してもボイルは、アグリコラやゲスネル等ごく少数の例外を除き、利用していない。3)ボイルは直近に出版された集成本(コンペンディウム、コモンプレイス・ブック、詞華集等)をよく利用している。4)ボイルは同一の著作の異なる版を利用することが少なくなかった。5)ページ数をはじめ、引用においてはボイルは正確な引用を行っていることが少なくなかった。
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