研究概要 |
黒潮続流域で,冬季の深い混合層で形成される亜熱帯モード水は,形成時の鉛直対流にともなって海洋深部から栄養塩を取り込むと考えられる.亜熱帯モード水が,春季以降,一般に栄養塩が枯渇していると考えられる亜熱帯海域の季節躍層以浅の表層,とくに有光層への栄養塩の供給源として機能しているか否かを,北太平洋でははじめてのクロロフィル・酸素センサー付プロファイリングフロートによる観測を主な手段として調べた. 平成18年2月末に黒潮続流域に投入したフロートは,7月中旬までの間,厚い亜熱帯モード水に追随して漂流し,5日ごとに,1000mから海面までの水温・塩分・溶存酸素・クロロフィルの鉛直プロファイルを計測した.この時系列データから,春季以降,季節躍層の下に分布する亜熱帯モード水の上端に接するように,亜表層クロロフィル極大層が継続的に存在することが明らかになった.また,クロロフィル極大に対応して,溶存酸素の極大層が形成されていることも明らかになった.以上の事実は,亜熱帯モード水の直上の有光層下部で生物生産が継続的に維持されていることを示唆する. 6月中旬に,学術研究船淡青丸によって,フロートの観測点およびその周辺の海域でCTD・採水観測を実施した.その結果,フロートが観測していた海洋構造と同様の構造が,少なくとも300km程度の空間スケールにわたって分布していること,亜熱帯モード水内でほぼ鉛直一様に分布する硝酸塩が,その上端付近から有光層に向かって急激に減少していること等がわかった.最近の研究で見積もられた,亜熱帯モード水上端部における鉛直拡散係数を,この硝酸塩プロファイルに適用すると,観測されたクロロフィルから推定される生物生産を維持するだけの栄養塩が,亜熱帯モード水から有光層に供給されている可能性が示唆された.
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