研究概要 |
メタンハイドレートはその貯蔵量が炭素に換算して石油・天然ガスに匹敵する新しいエネルギー源として期待される一方,地震や進行する地球温暖化によるハイドレートの海水中への溶出,メタンガスの大気への逃散によって地球温暖化がさらに促進される可能性もあり,注目度が高い。今年度は,測定例の少ない海水中のδ^<37>Clを開発し,他の化学的指標(主要化学成分と栄養塩濃度,安定同位体比{δ^<18>O_<H20>,δ^<37>Cl,δ^<34>S_<SO4>}等)にあわせて,日本海東縁におけるメタンハイドレード周辺の冷湧水やその起源等の評価を試みた。 観測は富山湾直江津沖において「淡青丸」KT05-11(5月)及び「なつしま」NT05-10(7月)による研究調査を行い,その結果は以下にまとめた。 北鳥ケ首海域において黒色変色域(2m^2)が観測され,堆積物間隙水の化学特性から,この黒色変色域での化学合成生物群集の栄養源はCH_4であること;また,このメタンの起源はほとんどガス態メタンであり,その供給深度は200mbsf以深であると考えられた。これらのことは,背斜構造にトラップされたCH_4が漏洩し,メタンハイドレード安定領域(水深300m〜海底付近の海水中)おいて,ハイドレードが生成されていることを示唆している。また,この海域の浅層水は対馬暖流水により低塩・低温であり,深層水は日本海固有水より低温で,特に海底直上(海底から3m)は高塩分であると分かった。海水中の酸素・塩素同位体比及び塩素濃度の結果から,メタンハイドレードが海底直上で生成され,浅層では分解していることが示唆された。更に浅層水中の塩分減少量より,メタンハイドレード由来の淡水が4割弱混合していることが計算され,つまり,それに相当するCH_4が海底から離脱し海洋表層へ移行していると分かった。今回示した化学的指標より,今後,日本近海の冷湧水域の全貌を把握することが期待される。
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