地球温暖化の進行を低減するには、社会制度を機能させ、人類の幸福感を満たしながら、低二酸化炭素生産体制へと移行するしかない。その基礎となる地球温暖化予測モデルが求められている。IPCC報告書でとられた予測方法は、いくつかの排出シナリオを作成し、それに対応した温暖化予測を気候モデルによって提供することである。しかし、シナリオに含まれる経済発展、人々の意識改革、社会制度の確立、科学技術の進歩などは、人類が任意に選択できるものではなく、これまでの歴史的経緯に加えて、温暖化を緩和する必要性とその認識そして社会制度の選択によって決まる。いま信頼性の高い将来予測に必要とされているのは、これらの社会要素を定量化する試みである。 2年度に渡った研究では、二酸化炭素増加による地球温暖化進行メカニズムを適確に含む簡略気候システム・モデルを構築し、社会経済(食糧生産を含む)への影響を調べる道具を用意した。さらに、二酸化炭素排出の推移に関しては、人口変化、社会経済活動と技術発展の推移に依存するものとし、それらの歴史上の変遷を基に温暖化の影響をパラメータ化した社会システム・モデルを構築した。これら2つのモデルを結合し、過去の地球温暖化の推移を参照してモデルを検証した。そのモデルを用いて100年程度の将来を予測した。モデル結果が示すところによれば、陸域生態系の吸収できる二酸化炭素は、気候変化の影響を受けて減少し始める。二酸化炭素排出を顕著に減らすことができないと、急激な温暖化が進む。これを避けるには、これまでの技術発展を格段に速め、2100年までに大気中の二酸化炭素濃度を550ppmに定常化するしかない。 一方で、人口を支える食糧生産に関しては、気候変化が水資源の枯渇をもたらす可能性を示し、また社会制度の脆弱な途上国に飢餓の危機が及ぶであろうと予測した。この成果を著書として刊行した。 8月にワークショップを開催し、理系と文系の研究者10名と共に、取組むべき課題について討議した。そこで提起された問題は以下のとおりである。 1)専門家の役割:科学者と政策決定者の共同作業が必須である。そこでは民主主義を活用し、住民の意見を高めると同時に、意識改革を進めるガバナンスが有効である。 2)企業の責務:企業利益と環境保全が対立するのではなく、環境に配慮する企業が有利になる。 3)経済活動:分析に基づいて実態と影響を把握することに加え、将来を予測し、制御できるかが問われている。 4)過去のデータを再構築し、モデルを検証:地球規模変化を予測するだけでなく、ローカル規模の土地利用に関するデータを収集、蓄積し、その上にエコシステム・サービスを定量化すること、また社会の認識を高める。
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