研究課題
今年度は、植物の葉から抽出した核に対するコメットアッセイによる遺伝子損傷度分布の特徴を把握するために、モデル植物としてアイビー(Hedera helix)を選定し、まずトルエンをモデル化学物質として暴露チャンバーテストを行った。他の物質との混合実験までには至らなかった。それは、遺伝子損傷分布の濃度依存性が予想外の結果を与えたからである。すなわち、トルエン暴露濃度が1ppm以下という極めて低濃度の暴露濃度範囲では、コントロールに対して有意な遺伝子損傷性の増大が認められたが、暴露濃度が50〜800ppmという高濃度暴露に対しては、遺伝子損傷性の分布の濃度依存性が認められなかった。これは、気孔を閉じるなどによる生体防御機構が働いたためと解釈できるが、植物の葉を用いたバイオアッセイとして興味深い結果である。今年度は、上記結果の再現試験に時間を費やしたため、トルエン以外の物質を試験することは出来なかったが、来年度では混合物質による複合的影響を明らかにしていきたい。いずれにせよ、バイオモニタリングとしては、極めて低濃度の環境中の汚染物質による影響を検出できる感度の高いモニタリングとして有用ではないかと考えられる。また、遺伝子損傷度分布の時間的変化から、継続的暴露による累積的影響を定量化するための評価手法を開発するため、アイビーの沿道大気環境質暴露による遺伝子損傷度分布の暴露開始からの時系列を解析した。沿道大気環境と非沿道大気環境における遺伝子損傷度の違いから、遺伝子損傷度を場所によって比較することによる相対的大気汚染度を示すことができ、アイビーによるactive monitoringの最適暴露試験期間は約1週間であった。さらに、統計的手法を用いた遺伝子損傷分布パターンの解析に着手した。チャンバー試験の結果からは、低濃度暴露領域においては、遺伝子損傷の進行と回復の速度因子を考慮するモデルを構築中である。
すべて 2005
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7th Symposium on Asian Academic Network for Environmental Safety and Waste Management Book of Abstruct
ページ: 107-110