遺伝子機能の研究において理想的な解析系は生きた個体で評価することである。「赤外レーザを用いた個体内単一細胞遺伝子発現システム」は、「生きている個体内」で目的とする細胞で、しかも目的とする発生時期に発現誘導できるシステムとして開発を進めている。これを従来から解析しているクリプトクロームファミリーの機能解析に適用し、生物の光環境への適応戦略を解析行うことが本研究の目的である。 クリプトクローム(cry)の転写活性を評価するためにトランスジェニック(TG)メダカの作製を行った。メダカの3種類のcry(cry1a、cry1b、cry2)と、概日リズムに関わる遺伝子としてBMALのプロモーターのクローニングを行い、これら時計関連遺伝子のプロモーターの下流にフェラーゼレポーターを繋いだベクターを作製し、微量注入してTGメダカの作製を試みた。cry1aに関してはTGメダカ系統を樹立した。他の3種類に関しては現在TG個体のスクリーニング中である。cry1aプロモーターが目標通りに機能するかをTG個体由来の細胞を用いて評価した。トランスジェニック胚から樹立した培養細胞株を明暗の照明周期で2日間培養した後に、暗黒下で、ルシフェラーゼによる発光量の経時変化を測定した。その結果、複数のTGメダカ由来の細胞が約24時間のリズムを刻んでいることを確認し、このTG系統のcry1aプロモーターが正常に機能していることを確認した。これにより今後の解析の基盤ができた。 一方、赤外レーザによる遺伝子発現系の確立は名古屋大学・産業技術総合研究所との共同研究で進めており、線虫を用いた実験で単一細胞での遺伝子発現誘導率が約40%の高効率で行える赤外レーザ照射条件を決定した。しかし、メダカの熱ショックプロモータの場合は発生初期のごく短い期間のみでしか制御できないことがわかった。今後は完全に動作する領域を同定する必要がある。
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