研究概要 |
化学物質暴露の結果として、多様な生物種に共通の影響がみられる一方、生物種間や同種内でも系統間で病態や重篤度が大きく異なる場合が知られている。したがって、水圏生物に対する化学物質のリスクを正確に把握するためには、種や系特異的な毒性発現の機構を分子レベルで理解し、適切なバイオマーカーを選択・モニターすることが必要である。そこで本研究では、カワウを対象に化学物質汚染のバイオマーカーを探索することを目的とする。本研究で得られた主な成果は以下のように要約される。 カワウ(Phalacrocorax carbo)のオリゴアレイを作製し、野生個体の化学物質(有機塩素化合物・ブチルスズ化合物・ビスフェノールA)残留濃度と遺伝子発現プロファイルとの関係について解析した。解析の結果、異物代謝酵素・受容体・免疫系・抗酸化酵素や糖タンパク質を含む多様な遺伝子のmRNA発現が化学物質濃度と相関関係を示した。特に異物代謝酵素および抗酸化酵素に着目し、それらのmRNA発現量をreal-time RT-PCRで定量した。代表的な異物代謝酵素であるシトクロムP450(CYP)1A4および1A5のmRNAレベルはダイオキシン類濃度と強い正の相関を示した。また、抗酸化酵素であるCu/Zn superoxide dismutase・Glutathione peroxidase 3・Glutathione S-transferase muは、対象としたいずれかの化学物質濃度と負の相関を示した。以上の結果より,カワウ野生個体群は活性酸素の生成および抗酸化能の低下による酸化ストレスを受けていると考えられた。
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