幹細胞と異なり機能細胞に生じる損傷は、組織固有の再生サイクルで細胞が生理的に排除され、修復を行なわなくとも損傷・変異細胞が組織に害を及ぼさないと考えられる。ところが機能細胞に蓄積した損傷・変異も長期間存在し、二次的変異や遺伝子不安定性によりがんの原因になりうるとの報告がある。そこで損傷がどのくらいの期間臓器内に留まるか、生体内の機能細胞における放射線誘発損傷・突然変異蓄積の有無の検証を行った。rpsLを突然変異検出遺伝子として組み込んだトランスジェニックマウス(HITEC)を用い、照射後のマウスゲノムからこの遺伝子を回収し、バクテリアの薬剤耐性を指標に突然変異率と遣伝子上の突然変異のタイプを検出する実験系を用いて生体内で生じた突然変異を調べる。このマウスと部分肝切除術を組み合わせ今まで検出できなかった生体内の機能細胞DNA上の放射線誘発損傷の経時的動態や、突然変異の経時的動態、変異スペクトラムの変化を追う。 本年度の実験と結果 部分肝切除後の増殖の変化を経時的に調査:C57BL雌12週齢を用いた。BrdUを用いたパルスラベリング法を用い肝切除後20時間後から4時間毎に1時間ラベルを行い72時間まで観察した。 HITECマウスの作成:HITECマウスは、凍結受精卵から作成した。 HITECマウス雌12週齢:35匹(5匹/1群) 実験条件:HITECマウスはガンマ線(線量率:104cGy/min)5Gyを全身照射する。条件は次の通り A群(5匹)照射後2日に部分肝切除を行い、3日後に屠殺後肝臓を摘出 B群(〃)〃、10日後〃 C群(〃)照射後10日に部分肝切除を行い、3日後〃 D群(〃)〃、10日後〃 E群(〃)照射後60日に部分肝切除を行い、3日後〃 F群(〃)低線量率(0.0116cGy/min)照射30日後に部分肝切除を行い、3日後〃 部分肝切除後の増殖の変化の実験から、切除後72時間後にラベル細胞が対照レベルになりこの時間が肝臓摘出至適時間と思われた。A-D群では切除前後の肝臓での突然変異率に有意な差が見られたが、E群では差が無く60日の間に放射線損傷の修復が起こったと考えられた。F群でも差は見られず、低線量率照射では修復が照射と平行して行われていると考えられた。次年度は得られた切除前後の肝臓の突然変異スペクトラムを解析し、前後でどのような違いがあるのか調べる。
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