多層カーボンナノチューブ(CNT)においてバリスティック伝導を実現(検証)することを目標として、以下の内容の研究を行った。 1.ナノチューブ本体の抵抗、コンタクト抵抗の評価を行うべく4端子抵抗測定、2端子抵抗測定を試みた。しかしながら、電圧端子(幅0.2ミクロン程度)を点接触と仮定した場合、測定したすべての試料について各所の抵抗値のつじつまが合わず、コンタクト抵抗等を正確に決定するには至らなかった。 2.窒化シリコンメンブレン(SiNM)法によるCNTの電極金属への埋め込み構造作製のプロセスを完成した。この方法では、1ミクロン程度のギャップを持つ電極対間にCNTを静電トラップ法によって架橋し、その後、微細加工したSiNMをマスクとしてCNT上に電極金属を蒸着する。CNTがレジストプロセス等によって汚染されないのが特徴である。SiNM法によって、素子全体の抵抗を大幅に(1桁から3桁)低減させることができたが、希釈冷凍機を用いた極低温測定ではコンダクタンス量子化等のバリスティック伝導は観測されなかった。 3.接触抵抗の更なる低減をおこなうために、電極金属の最適化を行った。大気中で酸化しにくいものとして、インジウムと金スズ合金を選んだが、ともに、蒸着後にシリコン基板上でグラニュラーになった。そこで、-50度に冷やした基板に低温蒸着を行ったところ、平坦な膜を得ることができた。これにSiNM蒸着を行って試料を作製したが、低温でクーロンブロッケード的な特性が得られ、バリスティック伝導はみられなかった。しかし、この測定で、クーロン振動の周期がバックゲート電圧の掃引とともに変化する現象を見出した。これは、CNTのバンド構造を反映していると考えられる。 4.さらに抵抗を低減させる作業のために、(1)アニール炉の設置、(2)CNT表面のクリーニングのためのイオンビーム源の設置、を行った。
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