多層カーボンナノチューブ(MWNT)におけるバリスティック伝導の検証を目的として、以下の実験を行った。 1.前年度のSiNメンブレン法(SiNM法)による電極形成では、(1)MWNTを任意に選択できない、(2)空気中で酸化しやすい金属は使えない、という欠点があった。そこで今年度は、基板上で良質なMWNTを選択し、それに対して電子ビームリソグラフィーと金属蒸着によって電極を接続する方法を用いることとし、電極設計を容易にするソフトウエアを開発した。さらにコンタクトを良くするために、電極金属蒸着の直前にアルゴンイオンシャワーで界面をクリーニングした。電極には低温で超伝導となるTi/Alを用い、超伝導近接効果についても調べた。 室温での抵抗値は数kΩから十数kΩで、SiNM法の場合よりも大幅に低下させることができた。しかし低温では、ゼロバイアス近傍で抵抗値が上昇し、バリスティック伝導の兆候や超伝導近接効果は観測されなかった。 2.対照実験として、グラファイト超薄膜や単層ナノチューブについても同様の実験を行った。その結果、両者とも超伝導近接効果が観測され、特に前者では超伝導電流の温度依存性はクリーンリミットの振る舞い、すなわち平均自由行程がソースドレイン電極間隔よりも長いバリスティック性を示唆ずる結果を示した。 以上の結果を考慮すると、我々の用いたMWNTでは平均自由行程は電極間隔(0.2ミクロン程度)よりもきわめて短いと推察される。欠陥補修を目的として、1500度程度のアニールを行ったが、効果はなかった。今年度、フインランドのグループからMWNTにおける超伝導近接効果観測の報告がなされたが、電極形成プロセスや室温抵抗値は我々のものとほぼ同じであった。唯一異なるのはMWNT生成のプロセスである。バリスティック性実現のためには、今回は扱わなかった「生成方法の最適化」が肝要である可能性が高い。
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