質量分析は、複雑な分子や高分子などの機能性物質の化学分析に欠かすことのできないツールであるが、既存の標準的な小型質量分析装置は空間分解能が不十分であるなどの欠点がある。この欠点を克服するため、光近接場技術により回折限界を超えた微小な光スポットを形成し、それを用いて元素脱離を行い質量分析の空間分解能の向上を図ることを本研究の目的とした。具体的には、既存の走査トンネル顕微鏡をベースにした近接場光学顕微鏡、元素脱離用レーザー光学系ならびに独自に設計・試作した質量分析装置を組み合わせることで、近接場質量分析顕微鏡を開発することき行った。本年度は、昨年度試作した質量分析装置と走査トンネル顕微鏡(散乱型近接場光学顕微鏡)を組み合わせたシステムを構築した。また、分析試料の脱離時の熱ダメージを最小限に抑えるため、アブレーションレーザーをナノ秒のパルスYAGレーザーからフェムト秒チタンサファイアレーザーに変更した。フェムト秒レーザー用の光学系をシステムに組み合わせ、近接場質量顕微鏡装置を構築した。この装置を利用して、バルクの半導体シリコン・金属・ポリマーをターゲットに質量分析が行えることを確認した。極微量物質の分析・空間分解分析を見据え、金クラスターの質量分析実験を行った。計算機シミュレーション結果と比較することにより、脱離した元素数を効率的に検出器まで導くための引き込み電極構造の最適化など、近接場質量顕微鏡装置のシステムとしての性能を向上させるための指針を、本研究を通して明らかとした。
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