銀コロイド溶液に測定対象分子を添加し、連続発振近赤外YAGレーザー光を集光することにより生じる表面増強ハイパーラマン散乱(SEHRS)を、種々の試料、濃度、レーザー強度において系統的に測定・解析した。以下に本年度の成果を要約する。 1、銀ナノ粒子の濃度よりも低い、10^<-11>Mのローダミン6G水溶液のSEHRS測定に成功し、1分子レベルの測定感度を持つことを実証した。 2、クエン酸に加えてタンニン酸を還元剤として用いることにより、サイズ・形状分布が狭く(約20-25nm)、8ヶ月以上にわたって分散安定性を有する銀コロイドの作製に成功した。 3、光圧ポテンシャル下での凝集構造、表面プラズモン特性の変化と、SEHRS活性の発現を解析するため、暗視野照明光学系と組み合わせ、SEHRSと共に、光捕捉した銀ナノ粒子の散乱スペクトルが測定できるシステムを構築した。 4、生体分子への応用として、テトラメチルローダミン色素でラベルしたリゾチーム分子のSEHRSスペクトルを測定した。濃度10^<-10>Mのリゾチーム水溶液からのSEHRS検出に成功し、蛍光色素をラベルした生体分子の微量検出や構造解析に適用可能であることを示した。この成果はJournal of Optics A誌に投稿中である。 5、色素が吸着した銀ナノ粒子凝集体をガラス基板に展開し、共焦点顕微鏡を用いて単一凝集体のSEHRS特性を解析した。同一の凝集体からの表面増強ラマン散乱(SERS)とSEHRSの測定に成功し、両者が全く同じ励起偏光特性を示すことを明らかにした。これは我々の知る限り、一つの凝集体の中でSERSとSEHRSが同一のホットサイトから生じる事を示した初めての結果である。 以上の結果、本手法が溶液中や基板上において、色素や色素でラベルした生体分子を1分子レベルで解析できる新しい非線形ラマン散乱分光法であることを実証した。
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