研究概要 |
鉄酸化細菌の1種のLeptothrix ochraceaは自然界では池や溝に豊富に存在するが、最近上水道浄水場で地下水中の溶存Feイオンを浄化する"自然浄水法"に利用され注目されている。この浄水法での鉄細菌は、溶存Feイオンを体内に取り込みエネルギー源とした後、体外に特異な形状(中空イプ状)の酸化鉄鞘を形成することが知られていたが、従来鉱物学、細菌学、浄水学の分野からの研究がなされているばかりで、その鞘状酸化鉄の詳細は殆ど知られていない。 我々は6年前よりこの鞘状酸化鉄について材料科学的な観点から注目し、その構造を検討して興味ある結果を予備的に得ていた。しかし、高純度な鉄細菌鞘のサンプルを得ることができなかったことから、その形態、化学組成、結晶構造などの詳細は明らかにできなかった。 そこで本研究では、先ず鉄細菌鞘状酸化鉄の高純度サンプルを得る方法を種々検討した。その結果、浄水槽での沈殿物から特殊な方法で濃縮し、鞘状酸化鉄を約90%まで高純度化することに成功した。次に、得られたサンプル中のSEM観察から鞘状酸化鉄の形態の特徴を明らかにした。鞘状酸化鉄は、約100個の観察から、外径および内径の平均値がそれぞれ1.40μmと1.07μm、長さが10〜400μmの中空パイプ形状をしているマイクロチューブであることが明らかとなった。従って、最大アスペクト比は400であり、人工的に作ったナノチューブやナノロッドなどでの従来の報告よりもはるかに大きなアスペクト比を示すことが見出された。鞘状酸化鉄の鞘は、厚みが平均0.17μmであり、TEM観察から10〜40nmの超微細な粒子によって構成され、約20nmの空隙を含むことを初めて見出した。さらに、鞘状酸化鉄の比表面積は約200m^2/gであることもわかった。EDX分析から、鞘状酸化鉄はFe,O,Si,Pによって構成されていることも明らかにした。さらに、X線回折実験より、鞘状酸化鉄は面間隔dが0.27および0.15nmにブロードなピークを示し、2L-ferrihydriteの構造に類似しているが、それよりも結晶性がはるかに低い非晶質構造であることを初めて見出した。
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