研究概要 |
中空構造を材料とする一番大きな魅力は、その空間であるが、一般にその空間は固いマトリックスによって外部との接触が遮断された非効率的空間という欠点をもつ。本研究では、その3次元空間を化学反応の新しい場として用いるための手法として、物質の移動や伝達の可能な中空マトリックスの開発を目的とした。まず、平成17年度においては、マトリックス中のナノ細孔のサイズ制御に関する最適条件を検討した。具体的には、ナノ細孔の作成法として、(1)鋳型となる有機分子を金属アルコキシドモノマーと適切な比率で複合化し、その混合物を用いて薄膜を作成した後、次いでこの鋳型分子を除去することで金属酸化物マトリックス中に鋳型分子の形を作る(Chem.Lett.,34(12),1686,2005)、(2)表面ゾル-ゲル法により金属酸化物/ポリマー複合薄膜を形成し、プラズマ法を用いて鋳型となるポリマー分子を除去することで金属酸化物マトリックス中にナノ細孔を作成する方法を試みた。方法(1)の特徴として、マトリックスとなる金属アルコキシドと鋳型分子の濃度比を変えることで鋳型分子の細孔を精密に制御することができ、場合によってはタンパク質などの巨大分子の固定化にも応用可能である。方法(2)は、小分子を鋳型とする方法(1)に比べ、正確な分子細孔を作ることはできないが、ポリマー自身の慣性半径によって異なったナノ細孔を作成することができる。ポリアクリル酸(PAA)を用いた場合とポリビニルアルコール(PVA)を用いた場合の膜厚に関連した吸着挙動について調べたところ、PVA膜ではフラーレン(直径:1nm)、cyt.c(直径:約3nm)などに対して吸着量の定量的増加を示すが、PAA膜ではそのような相関が得られないことが分かった。このような吸着挙動は、本研究で用いたポリマーの慣性半径に由来するものであることが実測のポリマーのサイズから明らかとなった。平成18年度においては、平成17年度において検討した実験条件をベースに多孔性中空粒子の合成およびその機能化に取り組む。
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