VDT作業等に代表される情報処理作業における総合的なメンタルワークロード(以下MWL)を評価する指標として心拍変動性(HRV)が存在する。この指標のための心電図RR間隔測定に際しては、メトロノーム等を用いた一定間隔の音刺激に合わせた呼吸統制を行うことが一般的である。このとき得られる統制呼吸データは、呼吸統制の確認のためのみに用いられている。 まず本研究ではこの統制呼吸を呼吸による同期タッピングとみなし、従来研究による同期タッピングの反応特性を基に、作業の認知プロセス(作業記憶)における処理資源の消費量が多くなる、即ち認知プロセスにおける情報処理によるMWLが増加するにつれて、統制呼吸における刺激音を聞いた後に呼吸する割合(反応的呼吸率)が増加すると仮説立て、この反応的呼吸率を新たなMWL評価指標として提案した。 ところで作業におけるMWLは、情報処理プロセスのうちの認知プロセスに限らず、知覚、運動プロセスの情報処理によっても変動する。しかし前述の仮説より反応的呼吸率は認知プロセスにおける情報処理によるMWLの相違のみを反映すると期待される。そこで本研究では、知覚、認知、運動プロセスにおける情報処理をそれぞれ情報処理の主とする3課題を用いて、それぞれ課題の処理難易度を2段階設定した実験を行い、各プロセスにおける情報処理によるMWLの相違が反応的呼吸率に反映されるか否かについて検討した。 その結果、認知プロセス課題においては情報処理によるMWLの相違は反応的呼吸率に反映されることが示された。一方、知覚、運動プロセス課題においては情報処理によるMWLの相違は反応的呼吸率に反映されないことが示唆された。 以上のことから、統制呼吸データの反応的呼吸率は、作業の認知プロセスにおける情報処理によるMWLに特化して評価することが出来る新たなMWL評価指標となる可能性が示された。
|