昨年度、統制呼吸を呼吸による同期タッピングとみなし、従来研究による同期タッピングの反応特性を基に、作業の認知プロセス(作業記憶)における処理資源の消費量が多くなる、即ち認知プロセスにおける情報処理によるメンタルワークロード(以下MWL)が増加するにつれて、統制呼吸における刺激音を聞いた後に呼吸する割合(反応的呼吸率)が増加すると仮説立て、この反応的呼吸率を新たなMWL評価指標として提案した。また実験の結果、この反応的呼吸率は文字情報処理という認知プロセスにおける情報処理によるMWLを評価することが出来る新たなMWL評価指標となる可能性が示された。 本年度は、文字情報処理に関わる認知プロセス課題について、その難易度を昨年度と比較し細分化した実験を昨年度と同様の実験方法で行った。その結果から文字情報処理のMWLの変化に対する反応的呼吸率の感度について検討したところ、主観的MWL評価指標であるNASA-TLXと比較し、感度が鈍いことが示唆された。 また文字情報処理とは認知プロセスにおいて一部異なる処理資源を用いるとされる図形処理に関わる課題について昨年度と同様の実験方法で実験を行った。その結果、反応的呼吸率は図形処理という認知プロセスにおける情報処理によるMWLについても評価できることが示唆された。しかしそのMWLの変化に対する感度は、文字情報処理の揚合と同様にNASA-TLXと比較すると鈍いことが示唆された。 以上のことから、統制呼吸データから得られる反応的呼吸率は、認知プロセスにおけるBaddeleyの作業記憶モデルによる視空間スクラッチパッド、音韻ループのどちらを主として用いる情報処理についても、そのMWLを評価できる指標であることが示唆された。その一方で、そのMWLの変化に対する感度は、主観的MWL評価指標であるNASA-TLXと比較し鈍いことが示唆された。
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