microRNAという小さなRNAは、生命の発生や分化等の様々な場面で司令塔の役割を果たす事が示唆され、注目を集めている。microRNAは、標的となる遺伝子のmRNAに結合し、mRNAの分解や翻訳抑制を引き起こすことが分かっている。標的遺伝子の同定に関しては、miRNA-mRNA結合におけるmiRNA5領域での配列相補の重要性が指摘されているほか、mRNA3'UTR領域において、miRNA結合部位を保持あるいは回避するような進化的な選択が働いたことが示唆されている。しかしながら、標的遺伝子の網羅的同定のためには、それぞれの組織や発生段階に特異的に働くmiRNA-mRNAの発現制御ネットワークを解明する必要があり、これには、引き金となるmiRNA自身の発現制御機構を明らかにすることが不可欠である。 このような現状にあって、我々は今年度、バイオインフォーマティクスを用いた画期的な手法による全ゲノム的なmicroRNAの発現制御機構の解析方法を提案した。この方法は、特定が難しかったmiRNA前駆体である(pri-miRNA)長い転写産物の全長を、データベースから抽出することにより、ゲノム上での転写開始点を同定するものである。転写開始点付近の配列の保存性および、転写因子結合配列の有無などから、miRNAが発現する組織の特異性を決定付けるような転写因子を同定することができる。これを用いて、我々は免疫系、特にマクロファージや樹状細胞などの自然免疫細胞に特異的に発現するmicroRNAであるmicroRNA-223の発現について、詳細な発現メカニズムを解明することができた。さらにいくつかのmiRNAについても候補となる転写制御領域をみつけており、miRNAを介した発現制御ネットワークの解明に、この手法が広く応用できることが期待される。
|