クルクリンは甘味タンパク質であると同時に酸味を甘く感じさせる味覚修飾活性を有するタンパク質であり、相同性の高い2つのサブユニット(クルクリン1およびクルクリン2)からなるヘテロダイマーとして活性を発現する。ヘテロダイマーとクルクリン1ホモダイマーの立体構造を比較した結果、主鎖構造の違いはC末端付近のループのみであり、それ以外の部分のr.m.s.d.は0.54Åと計算され、両者はほぼ同じ立体構造を形成していた。またNMRによる動的構造解析からC末端付近のループが高い運動生を有することが明らかとなった。 部位特異的変異を導入した変異型クルクリンを作製しその活性を評価した結果、変異により甘味活性および味覚修飾活性がほぼ消失するアミノ酸残基を見出した。この中にはC末端付近のループを形成する残基が含まれており、このループがクルクリンの活性発現に重要なことが明らかとなった。この他、主に甘味活性のみに影響する残基、あるいは味覚修飾活性のみに影響する残基が存在することが判明した。このうち、甘味活性発現に重要な残基をクルクリンの立体構造上に配置すると、それらの残基は分子上の一つの面に局在しており、この面が甘味活性発現に関与すると予想された。一方、甘味活性は保持しているが味覚修飾活性のみが消失するという活性変化をもたらすアミノ酸残基は甘味活生発現に関与する面には含まれていなかった。すなわち、クルクリンの甘味および味覚修飾活性がそれぞれ異なるファルマコフォアを介して発現することが明らかとなった。活性発現に重要と判明した残基が甘味受容体との相互作用部位に含まれるという制限を加味して、クルクリンと甘味受容体とのドッキングモデルを構築した。 以上の活性発現に関する構造情報は、クルクリンの甘味および味覚修飾活性発現メカニズムの解明において重要な知見を与えるものである。
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