本研究では、インドと日本の仏教において空間がどのようにとらえられ、それをどのように表現してきたかを多角的に考察する。宗教と空間の関係は、宗教学、民俗学、コスモロジー、都市論、建築学、美術史などの領域にまたがる複合的なテーマであり、さらに時間論や象徴理論とも密接に関わる。ここでは仏教の空間論として、(1)概念的空間、(2)象徴的空間、(3)建築的空間、(4)実践的空間、(5)歴史的空間という5つの空間のカテゴリーを設定し、絵画や彫刻、建築、都市などの特定の空間表象に対して、複数の視点からのアプローチを行う。 初年度である今年度は、仏教の空間論の基礎的な素材となるさまざまなデータの収集とデータベース化を進めた。とくに(1)概念的空間については、仏教の経典や論書に含まれる空間についての記述の収集、(2)象徴的空間については、インドの宗教美術の画像データベースの構築、(3)建築的空間については、仏教寺院や石窟の構造やプランのデータ収集をそれぞれ行った。このうち、(2)と(3)のデータは、これまでに蓄積してきた画像データをデジタル化した上で、すべて統一的な規格に加工し、一元的に扱えるようにした。また、これとテキストデータとリンクさせ、統合的なデータベースを構築した。現在、HTMLファイルに加工し、ホームページ上で公開できるように作業を進めている。これは来年度以降の研究のための基礎的な作業である。この過程における研究成果の一部として、インドのパーラ朝の仏教美術のデータを集成した「パーラ朝の仏教美術作例リスト」を、また、ヒンドゥー教寺院の構造に見られる空間表象について「ラジャスタン州ジャガットのアンビカー寺院」を発表した。
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