西洋中世美術における複製やコピーの問題一般について、これらの手段が果たした機能や役割を手がかりとしながら今後の考察を進めるために問題点の整理を行った。近代以前には芸術的訓練や修理において複製が必要であったし、さまざまな要素を自在に取り込み、自在に変形するというプロセスを通じた、芸術的創造におけるコピーの積極的な位置づけについて確認できた。聖画像(イコン)における複製の問題に関する調査と考察を進展させ、聖画像の奇跡的複製に関する伝説の収集を行い、問題点の整理を試みた。とりわけ聖画像の製作と使用が、旧約世界からキリスト教が継承したイメージの製作と礼拝に対する禁止や忌避に抵触するという問題を回避するため、マンディリオンやヴェロニカといった「アケイロポイエトン(人間の手でつくられたのではない)」画像の伝説の重要性が明らかとなる。キリスト教の画像論における複製の問題に関する資料収集を進め、ビザンテイン世界および西欧世界における画像論に登場する複製に関する言及を収集・整理した。しばしば印象等の比喩が画像論に登場することが指摘できる。また、貨幣や印章等の複製製作手段が真正性を照明するためにどのように管理されたか、という観点から権力との関連性についての考察を進めるための準備を行った。また、とくにオリジナリティという近現代の価値観、写真という手段との相違を念頭に置きながら問題点をヴァルター・ベンヤミンの複製技術時代の芸術作品に関する議論を参考として整理しようと試みた。オリジナリティとの関連でいえば、近代以前においては複製やコピーとはオリジナルであることを保証する手段として価値を備えていたことを忘れてはならない
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