本年度は昨年に続き、基本的な資料収集に勤めながら「親日」「親日文学」をめぐる植民地の文化状況に関する以下のような研究成果を発表した。まず、「<翻訳>の政治性-戦時期における朝鮮文学の翻訳をめぐって」(『人文論集』第57巻2号、2007年1月)では、日本における朝鮮文学の翻訳状況を辿った。戦前期における朝鮮文学の翻訳には基本的に日本側の政治性がいつも優先されていたが、それに対抗する朝鮮側の政治性も一方では存在していた。またそうした翻訳の状況を、本研究の主要テーマである張赫宙による翻訳劇「春香伝」やその他の翻訳作業と関連して考察した。張による朝鮮文学の翻訳作業がかかえる問題点と意義についても比較的な視点で言及した。また翻訳の問題については、「李孝石「落ち葉を焼きながら」における翻訳問題」(2007年5月刊行予定)を完成し、朝鮮文学の聖典になっている文学作品がじつは朝鮮語ではなく、日本語で最初に書かれたものであることを指摘し、その翻訳過程で生じるさまざまな問題点について指摘した。そして総体的に、「親日」や「親日文学」といったような概念ではなく、植民地主義をめぐる朝鮮の文化状況という新たな枠組みを提示した。またそうした植民地主義から逃れることがいかに難しいことなのかを例示した。
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