研究概要 |
本研究は,旅行文化への女性の参入を,19世紀の観光の大衆化における最も重要な現象の一つとして捉え,その背景にある要因を,交通機関や宿泊施設等の発達に加えて,女性作家による旅行記の隆盛にみる立場から出発している。事実,ドイツ語圏では,1780年代以降,ゾフィー・フォン・ラロッシュを嚆矢とする数多くの女性作家たちが旅行記でベストセラーを誇った。しかし今日,その作品の大多数は文学史の闇に沈んでおり,女性旅行記が独立したジャンルとして学問的議論の対象となるには至っていない。そのため本研究は,文学史から排除されたドイツ語圏の女性旅行記作家たちを掘り起こして研究基盤を整備しつつ,彼女たちが提供した異文化世界像を分析すると同時に,その受容状況を明らかにし,女性文学が大衆観光文化形成に果たした役割を解明することを目的としている。 本年度は,基礎文献資料の収集等による研究基盤整備に重点をおいて,研究を推進した。手始めに,慶応大学附属図書館所蔵の19世紀家庭雑誌『園亭(Der Gartenlaube)』中の旅行に関する記事収集に着手した。9月から10月にかけは,フランクフルト市立図書館やドイツ図書館,バイエルン州立図書館,オーストリア国立図書館,ベルリン国立図書館等で,資料収集を行った。また国際文化研究科所蔵のマイクロフィッシュ資料『ドイツ文学叢書(Bibliothek der deutschen Literatur)』から関連する資料を抽出し,プリントアウトして,資料としてすぐ使える状態に整備した。そのうえで,現在,これらの資料を整理している。さらに,ドイツ語圏のの古書市場を調査し,入手可能な資料も調達した。 これらの収集資料により,来年度以降,ドイツ語圏における女性旅行記の系譜を整理し,その受容状況についても分析するために必要な研究基盤を構築できた。
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