本研究では、旅行文化への女性の参入を、19世紀における観光の大衆化におけるもっとも重要な現象の一つとして捉え、その背景にある要因を、交通機関や宿泊施設等の発達に加え、女性作家による旅行記の隆盛に見ようとしている。本年度も、昨年度に引き続き、研究基盤整備に重点を置いて、研究を進めた。 1)昨年度、オーストリア国立図書館、ドイツ国立図書館、バイエルン州立図書館、フランクフルト市立図書館およびドイツ図書館で収集した、女性旅行記および作家たち、女性旅行記作家たちに関する新聞および雑誌報道、旅行ガイドブックに関する一次および二次文献資料を整理した。データベース作成のための準備として、キーワードの選定やデータベースの形式について、検討した。 2)19世紀ドイツ語圏の旅行ガイドブックについて、日本国内で入手可能なものについて、所在を確認し、一部を収集した。 3)女性旅行記作家の著作に加え、比較のため、同時代の男性作家による旅行記も、国際文化研究科所蔵のマイクロフィッシュ資料『ドイツ文学叢書(Bibliothek der deutschen Literatur)』から抽出し、プリントアウトして、資料として即時使用可能な態勢に整えた。 4)ドイツ語圏の古書市場を調査し、入手可能な資料を調達した。 これらの作業により、まだ十分とは言えないが、この分野の研究にとって必要な基盤整備を進めることが出来た。これらの資料を活用し、手始めに、1844年に相前後して聖地巡礼とエジプトへの旅を行った二人の女性作家イーダ・プファイファーとイーダ・ハーン=ハーンの旅行記にっいて、旅行記自体および当時の受容状況について、分析を行っている。この成果は、論文として発表する予定である。
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