研究概要 |
三浦は、本研究の基本文献であるWalter Benn Michaels, The Shape of the Signifierを翻訳し、『シニフィアンのかたち』(彩流社2006年)として出版、訳者解説において、マイケルズの議論の位置づけをこころみた。アイデンティティの重要視という点において、モダニズムとポストモダニズムの連続性を指摘するマイケルズの議論に対し、ネーションのアイデンティティ構築をその主目標とするモダニズムと、ネーションの意味の変質のなかで、反本質的なアイデンティティを主張しようとするポストモダニズムのあいだの相違点が研究課題として見出された。ネグリとハートのみならず、ジョルジオ・アガンベン、ジャン=リュック・ナンシー、アラン・バディウといった、いわゆるポスト・ポスト構造主義の批評家、哲学者らがこぞって重視する単独性の概念を、モダニズムとポストモダニズムとのあいだの差異を言語化する概念装置として検討していきたい。 越智は、ナショナルな言説空間との関係のなかで南部農本主義が成立する過程を、南部が北部との関係からジェンダー化される言説の構築という観点から再考した。Nina Silberが米西戦争の時期について提示した南部言説のジェンダー性という枠が、その前提を変更すれば1920年代にも有効であり、またこのような土壌が農本主義の基底をなすことを論考した。その成果は「新批評の父たち-南部農本主義者の共同体」『一橋大学研究年報 人文科学研究』43の一部に生かされたほか、日本アメリカ文学会第45回全国大会「モダニズムの南部的瞬間」(法政大学10.14.2006)として発表された。 また、南部文学をモダニズムとして再編成していく際に大きな影響を与えたW.J.CashのThe Mind of the South(1941)などにみられるような南部における「ケルト」の文化的意味を考えるにあたり、夏にはカリフォルニア州バークレーで開催されたScottish Literature in World Literaturesに出席し、南部文学におけるケルト的想像力について示唆を得た。
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