今年度は、「水療法」の「女医」で、健康改革運動、フリーラブ運動、女性解放運動に携わったメアリー・ゴウヴ・ニコルズに関する調査活動から始まった。6月のアメリカ学会、12月のジェンダー史学会において、彼女がかかわったフリーラブ運動とシルヴェスター・グレアムが中心となって展開されていた健康改革運動がどのような関係にあったか、さらに、オナイダ・コミュニティの創設者ジョン・ハンフリー・ノイズのフリーラブとニコルズのフリーラブはどこが違うのかなどについて研究報告を行った。また、これらの研究を進めるため、8月下旬から9月上旬にかけて、ボストンを中心に資料収集を行った。現在、考察結果をまとめた論文を投稿中である。 ニコルズは文筆活動も積極的に行っていた。自伝的小説『メアリー・リンドン』(1855)を通して彼女が読者に訴えたかったことは何か、彼女が最終的にアメリカを去った本当の理由は何かなど、文学的側面からも彼女の生涯と彼女が生きた時代のアメリカ社会の実態を調査した。この研究成果は論文「赤裸々に語るテクスト」として発表することができた。 フリーラブ運動、健康改革運動、ユートピア運動の相互関係を、南北戦争以前のアメリカの社会状況と結び付けて調査した結果、これらが奴隷制廃止運動とも密接な関係にあることがわかった。この問題に関しては、2008年9月に開催される日本アメリカ史学会で口頭発表をすることが決まっている。今回の科研費による研究期間終了後の発表だが、当該研究成果の一部である。 3年間の研究により、19世紀中葉アメリカの社会改革運動の中心に健康改革運動があり、文学を含む幅広い分野に多大な影響を及ぼしていたことが裏付けられた。この時期なぜアメリカ人がこれほど健康問題に敏感であったかを考えると、現在のアメリカが抱えている問題も見えてくる。この研究成果を近いうちに図書として出版したいと考えている。
|