研究課題に関して昨年度と本年度に入手した一時資料の複写と研究文献を用い、主に以下の点を分析し、明らかにした。 ジャン=ポール・サルトルが第二次世界大戦直後に渡米した際に交流した芸術家、批評家、さらに作品論を執筆した芸術家たちが当時のアメリカの現代美術界を代表する作家であり、さらに彼らがアンドレ・ブルトンら、ヨーロッパから渡米していた亡命シュルレアリストたちとも深い関わりを持ち、シュルレアリスムの影響を直接に受けた芸術家たちであること、すなわち彼らにとっては、シュルレアリスムとサルトルの実存主義とが、一般に考えられているほど排他的関係にはなかったことを、事実関係と作品の特徴から示した。 さらに、40年代後半にアメリカの抽象表現主義がサルトルの実存主義をその精神的根拠として用いた様を明らかにし、この両者がシュルレアリスム批判で共闘関係にあったこと、しかしながら、その批判には多分に戦略的意図が見られ、実際の作品の特徴や言説にはシュルレアリスムの美学とも共通する点が見出せることなどを明らかにし、「サルトルの美術批評とアメリカ滞在」という題で論文を執筆した。 また、40年代のアメリカにおけるシュルレアリスムの影響を検討することにより、シュルレアリトのうちでも特にゴーキーやパーレンら、30年代に「アプストラクション=クレアシオン」の活動に集った作家の重要性が認められたため、フランス国立図書館その他において、このグループに関する資料収集を行った。
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