本年度は研究課題について以下のように研究を進めた。1)サルトル自身やアメリカの文芸誌、美術誌が40年代に実存主義を紹介するにあたって、なぜ超現実主義を批判対象とする必要があったのかを明らかにするために不可欠な問題として、サルトルの超現実主義との関係を通時的にたどり、特にその初期思想における独我論乗り越えの試みに当時のブルトンをはじめとする超現実主義者の問題意識との共通点を見出した。この問題は論文のほか、07年の日本フランス語フランス文学会秋季大会にて開催したワークショップ「1930年代シュルレアリスムの政治と美学」においても部分的に展開した。また2008年3月にフランスのアンジェ大学において二週間客員教授をつとめた際に「サルトルと超現実主義」という題で講義を行い、参加下さったサルトルの初期思想を専門とするジャン=マルク・ムイエ先生他と意見交換を行った。2)第二世界大戦後の日本における実存主義と超現実主義の受容の問題に関しては特に花田清輝のモダニズム論、超現実主義論を中心に、当時の日本の前衛美術に関する資料の分析を行い、そこに全般的指摘できる超現実主義に関する不理解、誤解がどのような起源を有するものかを探った。3)30年代のアメリカにおいて、実存主義に思想的支援を求めつつ抽象表現主義評価と超現実主義批判を行ったクレメント・グリーンバーグ他当時の多様な美術批評を分析して、40〜50年代アメリカの美術批評における超現実主義批判のディスクールの成立過程とそのディスクールのアメリカ、日本における影響を探った。4)2008年3月にフランスに研究滞在し、ペヴスナーら30年代に幾何学的抽象と超現実主義の中間領域にいた芸術家や、パーレンら40年代に抽象表現主義と超現実主義の中間領域にいた芸術家に関する資料等の収集と分析を行った。
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