研究概要 |
平成18年7月オーストラリアのニュー・サウスウェイルズ大学で開催されたアイルランド文学研究学会において関連テーマで口頭発表をした。北アイルランド詩人Medbh McGuckianの作品における「ホーム」の分析を通して、「ホーム」に内在している遺失のものの共存を認めることで、グローバリゼーションを迎えた世界の中で、多文化共存型の「ネーション」を目指すことの必要性を論じた。また2週間弱のオーストラリア滞在中、コモンウェルスのひとつとして英国文化の表象(ロイヤルファミリーなど)、アボリジニー文化の表象、アイルランドコミュニティをはじめとしてその他様々な移民文化の表象を、摩擦も暴露しながら共存させようとしているオーストラリア文化の状況を取材した。とりわけそれぞれの母国から移民して来た時期の苦難の記憶を語り直しながらアイデンティティを創造していく構造の文化的表象を視覚文化の中に取材した。 8月はイングランドに滞在し、アイルランドだけでなく旧植民地からの記憶を定着させようとする人々が構成するロンドンの状況と、ロンドンという多文化共存の場所に対してことさらイングランド性を主張する地方文化の対立と保管状況を取材した。また様々な民族間の葛藤と階級間の葛藤がねじれた関係で存在するイギリス社会の状況を取材し、格差社会と他民族文化共存社会を特徴として行くであろう21世紀の世界のネーションの方向を探った。 10月には愛知淑徳大学で開かれた日本アイルランド文学研究学会「トランスレーション」についてのシンポジウムで参加した。観念を母語という媒体に「トランスレート」していくことを通して、「ホーム」「ネーション」に本来的に在る居心地の悪さ、unhomeliness,について論じた。
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